- 石屋のないしょ話
座布団二つ折り
歌舞伎など、江戸時代以前を舞台にした芝居では、家臣らが二つ折りにした座布団を捧げ持って歩くシーンを見ることがあります。彼らは主人の横に座ると、座布団を広げて主人の前に置きます。すると、主人はおもむろに座布団の上に座ります。
この座布団の扱い方は、お客に座布団を出すときの正式な作法です。今日ではお客用の座布団というと、最初から敷いておくのが一般的ですが、かつてはお客を座敷に通してから二つ折りにした座布団を広げて出したのです。
出し方にも決まりがあって、折り目を手前にして運び、相手の横に座って広げて出します。折り目を向こう側にしたり、横向きにするのは無作法になります。
このような作法が生まれた背景は、お客の前で広げることで、中に武器などおかしなものを忍ばせていませんと知らせるためです。また、座布団を広げることは「縁を広げる」に通じ、縁起が良いともされました。
加えて、昔の座布団が薄かったこともあります。
座布団ができたのは室町時代後期のことですが、当時は綿が貴重品だったため、座布団に入れる綿の量が少なかったのです。そのため、たたむことも簡単で持ちやすいように二つ折りにして運べたのです。
ところが、江戸時代に入ると“綿事情”が一変します。木綿の栽培が盛んになって、綿の値段が安くなり、中にたっぷりと綿を詰めた分厚い座布団を作れるようになったのです。
二つ折りにしにくくなって、広げたままの座布団を出したり、あらかじめ敷いておくようになったと、いうわけです。
ご参考までに・・・。